去人たちと私

去ってもよろしいでしょうか。


私が『去人たち』をプレイして早……覚えていない。とりあえず幾数年とだけ。

去人たちについて何度も語ろうとした。それでも私は語ることができなかった。なぜか? それは去人たちがそのような効力を持ってたからだと、確信をもって言える。ひどいと思われるかもしれないが、しかし何とも動かしがたい事実として、「去人たち」と検索してみよう……いや、きっと、去人たちが好きな人ならこれ以上なにも言わずとも、この話題から


去ってもよろしいでしょうか。


なんで去人たちに辿り着いたんだろう? 作者らがやっていたニコニコ生放送でも、この話題はあがっていた。「去人たちプレイした人ってどこ経由なんでしょうね?」んー。私も覚えてない。まったく覚えていない。レビューサイトという声が多かったが、私もレビューサイトを見た覚えがある。どこだったかは忘れた。当時、フリーゲームを漁ることにハマっていて、ニッチでエッチなゲームをいかに発見するかに執念をかけていた。他にもホラーゲームが好きなので、もともと使っていたPCはフリーホラーゲームの海の藻屑と化している。となると……
フリーホラーゲーム→ニッチでエッチなゲーム→去人たち……?


去ってもよろしいでしょうか。


当時、たぶん中学生だったこともあって内容は全くわからなかった。理解力がいつもコース半周遅れている私なので、去人たちⅠにあたるシナリオは二周して「アッ!!!!!!!!!!!ソウイウコトダッタンダ!!!!」という反応だった記憶がある。二周させられた。なにが何だか分からなくても、強烈なカタルシスがあった。作者らのニコニコ生放送(※異化、美の去人たち)で、作者たちは「感動モノにしたくなかった」といっていたが、やややややや!!二週目で思いっ切り泣いたヤツがここにいる。気持ち悪いな。
去人たちⅡはどうだったろう。私は、この世でいちばん読んだ物語は去人たちⅡであると胸を張るまでもなく言える。それでも、やっぱり……暗闇。目を覚ました私は、部屋の電灯をつけるため「そこ1」に足を置いた。そして「そこ2」から足を踏み出す。それから「そこ3」に手を置くも、スイッチがないことがわかる。経験的感覚で指先を駆使して「そこ4」を探るも、スイッチはみつからず、いまだ物語は暗いままで、私はもう寝ることもできないまま、スイッチを探し始める……そのためには、まず「私の部屋である」という事柄に疑いを差し向けなければならなかった。乱暴に手を振り回して、壁との接触を試みるも、壁だった場所を手が通る。えっさほいさ状態。どじょう掬いとかやっちゃう?
いいえ。歩き出すしかなかった。部屋を明るくするために、歩き出すしか無かった。そうして一歩を踏み出した私。歌穂に手をとられたのか、やがて臨床心理の道をたどることになる私。あの虚構船団を読んだ日の頃の私。


去ってもよろしいでしょうか。


やがて私は、美術高校生をやっていた。相変わらず、去人たちをやっていた。なにもわからないままから、少しわかるようになっていた。筒井のオマージュであるとか、lainのオマージュであるとか、中原中也であるとか、薬菜飯店とかだ。しかし、オマージュであるということはわかっても、肝心のゲーム内容は何を意味しているかわからない。薬菜飯店もわからん。どうすんのよ。意味わかんねえよ。むきー。そうだ単語がわからん。「超越論的統覚」。調べる。「デストルドー」。調べる。というわけで私は、フロイトを読み始めて、哲学を読み始めて、現代思想の坂を転がっていく……しかし、それは言い様のない場所、虚無、目と耳のあいだの空間、“対象”への接近だった……。


去ってもよろしいでしょうか。


春の桜が散るころに、私は去人たちを卒業していなかった。去れなかった。
ところが、去人たちで開かれた道は多くの恵みをもたらした。
いま、詩をやっているし、絵も続けているし、とにかく様々なことに関われている。読書なんて生命活動の一部となった。今期から新しい挑戦をするだろう。将来選択だって、歌穂ちゃんを追っていると何故だか臨床に携わることに。安易なカタルシスに身を任せて、ここで筆を置こうとしているわけでないよ?よ?よ?しかしそれでも、私がいまここに在ること、それは去人たちのおかげであると書きたかった。こんなことだけじゃない、私が感じていることは。書きたいことは書けない、今も。


去ってもよろしいでしょうか。


デバッグをやったこともある。去人たちZEROプロローグのだ。私は「ムーミンだけは俺を殺せる」とかいう、訳の分からん偏執的な一文を名前として登録していたので、それが載ったエンディングを見たとき冷や汗をかいた記憶がある。まあそれもよいでしょう。(よいのか?)いいんだよ。それと、「去人たちwiki」、編集できない。回数制限をかけられてブロックされてしまっている。下書きを残そうとして、何度もページを更新しているとシステムにスパムと勘違いされてしまった。マズい!サツだ!ささーっ。管理人さんは見ているなら私に権限を譲渡してください。


去ってもよろしいでしょうか。


せっかくここで終わるのも勿体ない気がしたので、ひとつゲームに関して言えることがあるとするなら、Ⅱのエンディングはハッピーだと思います。誰にとってのハッピーか? それは精神病十種の患者たちにとってです。


去人たちのこれからを祈って。

@goodbyewoosiete